鋳造法に用いる器材類
鋳造法は、現在の補綴物製作を支える技術であり、本法なくして現在の歯科技工技術の発展はあり得なかっただろう。しかし、現在に通じる鋳造法の考案者を知る者は意外に少ない。
歯科鋳造の“生みの親”には諸説あるが、William Henry Taggart(1855~1933)とする説が有力である。当時、インレー修復に関しては金箔充塡法が最も高精度な技術とされていたが、彼は新しい術式を見出そうと試行錯誤を重ねていた。そして1907年1月15日自作の埋没材を用いてワックスパターンを埋没し、これを加熱してワックスを焼却させ、その中空に自作の鋳造機を用いてスプルーから溶金を圧入させるという術式を発表した。当時の歯科関係者は、きわめて精密な鋳造体が簡単に得られるこの技法に驚き、Taggartが発表した鋳造法は、瞬く間に金箔充塡やアマルガム充塡に取って代わっていった。
そして、わが国においてもこれまで紹介してきた鈑加工技術に代わって鋳造法が普及し、現在の歯冠修復治療の一翼を担っている。今回は、鋳造法が取り入れられた当時に使用された器材を供覧する。

ブリキ製のアルコールランプ
現在はガラス瓶によるものがほとんどだが、当時はブリキ製のものもあった

ブンゼン灯各種
大きいブンゼン灯には、ガスと空気を個別に調節できるようコックが2つ付いている。またブローパイプ装着用アームもある。


鋳造用リングと円錐台
各種リングはテーパー(傾斜)が付与されているもの。円錐台は現在ではゴム製・金属製がほとんどだが、当時は木製のものが使用されていた。

さまざまなリングファーネス(鋳造用電気炉)


ブローパイプ(吹管)

ガス発生器
ブローパイプに取り付けて使用する装置。ガソリンをタンクに注入して密栓し、足踏み送風機(フートベル)のペダルを小刻みに踏んで送風する。タンク内を通る空気は、一方は気化したガソリンを押し出し、もう一方の管を通る空気は、ブローパイプの先端で気化したガソリンと混じり高温のガスとなる。1963~1970年頃に使用された。

三備タンク
三徳タンクとも呼ばれ、タンク・ブローパイプ・ブンゼン灯の3役を兼ねた器材。タンク内にガソリンを浸漬させた脱脂綿を入れて使用していた。第2次世界大戦終戦後、あらゆる器材が不足している時代に普及した特許取得製品である。


金属の溶解に応用された木炭
炭火によって生じるCOとCO2が金属と空気を遮蔽する特性を活かし、木炭の中に置いた溶解皿のうえに金属を乗せ、酸化を防ぎつつ溶解させていた。右にあるのは精錬剤(フラックス)である。

圧迫鋳造(機)
1960年代に用いられた初期の鋳造方法

遠心鋳造方法は圧迫鋳造法より後に考案され、1960年以降に普及した。